第60話 天使の生死 まだ、サマエルの音沙汰は無い。 ミカエル「…」 夜、彼は城の尖塔に立って、月を眺めていた。 いつも見えるのに、永遠に届かないもの。 月が、それを表していた…… ミカエル「…ガブリエル…ラファエル…オリフィエル…アナエル…ザハリエル…そしてサマエル… 天使…でも、届かないもの…それは…」 ラファエル「何、してるんだ?」 ミカエル「…ラファエル?」 突然、背後からラファエルが飛び上がってきた。 ラファエル「お前らしくないな…こんな所で。 部屋であの二人と一緒にトランプで遊んでるかと思ったが」 ミカエル「そんな毎日してる訳じゃないさ。 ポーカー大好きだけどな」 ラファエル「運任せだが…まあいい。 …お前に、聞きたい事がある」 ミカエル「何だ?」 ラファエル「…お前は、天使についてどう思っているんだ?」 ミカエル「どう…って。 自身も天使だし別に特別に意識した事は…」 ラファエル「いや、嘘だな」 ミカエル「…断定しやがって。 …何か面倒くさいよな」 ラファエル「…」 ミカエル「別に天使である事が嫌いなわけじゃないぜ。」 ラファエル「なら、何でしばらく行方を眩ませていた? 嫌じゃないならば、俺達といてもよかっただろう…」 ミカエル「…あの頃は、ウィンドと一緒に気ままに旅してただけさ。」 ラファエル「いや…お前は異世界に行った」 ミカエル「……あっちの世界か」 ラファエル「そしてそれからお前に少し変化があったようだな。」 ミカエル「何が言いたいんだ?」 ラファエル「見方が変わったか?」 ミカエル「…まあ、な。 それまでは、守るべきものだとばかり思っていた。 人をはじめ、地上の生物は弱くて、俺達の力で守護してやらないと駄目だと思ってた。 でも、そうじゃなかったな… 友情、愛、…絆。 繋がりが、あいつらを強くする。 思いが、あいつらを動かし続ける。 あっちの世界に行ってから分かったことさ」 ラファエル「…そう、か。」 ミカエル「何ていうかさ。 あっちの世界にいたら、もう天使である事なんてだんだんどうでもよくなってきてね。 悪魔を倒す事なら天使じゃなくても出来るし。 そこまでそれにこだわる必要も無い。 新たな世界が広がった感じだったよ。」 ラファエル「…捨ててもいいだろう?」 ミカエル「……は?」 ラファエル「もう、俺達の最大の役目は終わったんだ。 悪魔を、倒す、その役目は。 だから、もう天使はいらないのかもしれない」 ミカエル「…そうか。考えた事も無かった。 もう、いいんだよな。 ははっ、もうどうでもいい存在を三人も増やしたのは不味かったな」 ラファエル「ウィンドはどうでもいいものに嵌められたのか」 ミカエル「そうかもしれない。ありゃ半ばエリアスの所為だが」 ラファエル「あいつは、喜んでいるようだな。ファンタジックな物が好きなのか?」 ミカエル「ははは…」 ラファエル「まあ、いいな… …そういえば、今のウィンド…オリフィエルは一体どんな様子だ?」 ミカエル「もう割り切ってるっぽいな。 とはいえ…」 ラファエル「?」 ミカエル「あいつも結構非現実的な事は好きだしな。 自身が巻き込まれるのはあまり好きじゃないようだが」 ラファエル「普通巻き込まれたくはないだろう…」 ミカエル「ただ、羨ましかったっぽいしな。」 ラファエル「…?」 ミカエル「まあいいや。あいつは至って普通だ。 多分な。」 ラファエル「そうか。 まあ慣れているだろうからな。 俺達に影響を受けているかもしれないしな」 ミカエル「普通の人間なら俺達の傍にいるだけでも影響ありそうだしな。力に、な。 しかもあいつは他の人間とは比べ物にならないほど長く関わってしまったからな」 ラファエル「不運だな」 ミカエル「どうかな? …ところで、俺達は本当に…もう、いいんだよな」 ラファエル「もう、使命からは解放されている…きっと、大丈夫だ。」 ミカエル「…これからは、何にも縛られなくていいよな… ま、いつでもフリーダムに生きてきたがな!」 ラファエル「フリーダムってお前…まあいい。 ………何で俺達は生まれてきたんだ?」 ミカエル「さあ? やっぱ悪魔対策じゃないのか?」 ラファエル「…それだけのために望まれて生まれたなら、 もう俺達はこの世界にとって用無し、か」 ミカエル「それが、使命から解放されるって事だと考えるとある意味厳しいな…」 ラファエル「…まあ、今はいいな。 またいずれ、話し合おう」 ミカエル「まあ、話し合うべき事か。」 ラファエル「夜遅くにすまなかったな。 まあ寝ていないならいいな」 ミカエル「何か最後のがむかつくぞ …天使は永遠の命、のはずだけど。 いずれは、俺も消えるか…そう遠くない未来、な… …俺が消えて悲しむ奴ってどれくらいいるかな。 俺の消える頃には悲しんでくれる奴は残ってない気がするけれど、」 「ミカ…エル…」 ミカエル「…ん?」 「ミカ…エル…消えない…で…」 ミカエル「この声は…!?」 翌朝 オリフィエル「ミカエルの奴、失踪しやがった!!」 ティルヴィング「え!?」 オリフィエル「あいつが失踪するなんてどうしたんだか分からないが… とにかくいなくなった!」 アナエル「誘拐?」 オリフィエル「それはない。 とにかく、探さないと…あいつが突然消えるなんて悪い予兆の他の何でもないからな」