第65話 天使


ある場所の洞窟にて―――。



「ミカエル…ミカエル!」

「駄目だな、起きそうにない」


「う、うーん…後三週…」

「何が三週なんだ!?」



空間の天使達はいつまで経っても起きないミカエルを何とか起こそうとしていた。


「くくく…ならば首を掻き切って…」

「やめろ!」






「どうにかこいつを起こす方法を考えてくれ、みんな」

少しうんざりした口調で言う、茶色の髪の天使…ラファエル。


「え? …叩けば起きるかな?
 金鎚持ってる人いる?」

かなりまずい方法を提案した、まだ幼い少女の天使…アナエル。


「永眠したらどうするんだよ!」

そこを何とか静止させる、風を纏った剣を背負った天使…オリフィエル。


「くくく…」

先程首を狩っ切ろうとした「死神」と言われる天使…サマエル。


「もう、起きるまで待てばいいのに…」

一同をなだめる、大人びた女性の天使…ガブリエル。


「うーん…後二週…」

そして…まだ眠っている、空間天使のリーダー…ミカエル。




「…しょうがない、ぶっ叩くか。
 オリフィエル。ティルヴィングの柄でこいつを殴ってやれ」

「はあ…?」



ラファエルは、もう強硬策しか無いといきり立ち、オリフィエルに指示した。


オリフィエルはそれに溜息混じりに返事する。


「…っ。
 加減しないと二次災害が…」




オリフィエルは剣の柄でミカエルを叩こうとしたが…




「あ!」


ガブリエルが声をあげる。


その時にはもう風圧でミカエルは吹っ飛んでしまっていた。



「やべっ…あーもう、加減しろって! ティルヴィング!」


剣に呼びかけるオリフィエル。傍から見れば、おかしいんじゃないかと思われるが…







「う…うう……みんな…大丈夫か…?」


「いや…お前だけだ。大丈夫じゃないのは」




ミカエルは起きた。







少し離れた上空


「さて…こっそり発信器を付けておいたのは正解だったな…」

スライサーが飛空挺で天使達のいる所に向かっていた。


「まあ、あいつらが数日、同じ場所で待っていられるとは思えないからな……
 おっと…あそこか」





「ん? あれは「レッドオーシャン」!?」


レッドオーシャン、とはスライサーの飛空挺の事である。


以前、この飛空挺は湖に落ちた。


この機体は紅く塗られており、その時まるで湖が赤く染まっていたように見えた。



で、何故か湖ではなく海の「オーシャン」をつけられ、「レッドオーシャン」になったのだ。

「紅の海」とでも言うのか。





スライサーは飛空挺を降ろした。



「やれやれ…手間をかけさせてくれやがって…天使共め」


「ん…? もう夕方か? 外が赤い…」

「ミカエル。あれは夕焼けの色じゃない。
 どれだけ寝ぼけているんだ…?」


ラファエルはやれやれ、といった表情で言う。





「…寝ていたのか」


「こいつだけな…」

オリフィエルが即座に言う。





その後、天使達を飛空挺に乗せ、スライサーは一路再びセンクレイスに戻る事にした。


「どうしたんだ? あそこでまた何かあったのか?」






前も言われたが、センクレイスは過去何度も襲撃を受けている。



ここ最近の事件を振りかえると…


まず、天空天使、及び悪魔の襲撃。

この間に二度もあの国は襲撃され、両方で壊滅している。復興はしたが。


次に、今は亡きラーファス帝国との戦争。

城は相手の工作員の仕掛けた爆弾で大破した。


最後に、「死神」…サマエルの襲撃。この場にいるサマエルの事である。

この時、城下町で彼が魂狩りを行った。

そのため、これで計四度目の襲撃を受けている事になる。


最も被害が大きかったものは、天空天使の一度目の襲撃、次いで帝国との戦争。


それ以外の二回においては様々な事象により最終的にはノーダメージであった。




まあとにかく最近色々起こっていて、油断ならないのである。




「…また何か起こってしまった時のために、とりあえず城を固めたりするらしい。
 それで、高水準の金属が欲しいそうだ」



「金属…ねぇ」


ミカエルは呟く。

天使やら軍事力最強の帝国やらに襲われたら一溜まりも無いのは同じだろうから、

それよりやるべき事があるんじゃないだろうか…彼はそう思った。だが。


「金属なら…何所かに色々な鉱石が採れる鉱山があるらしいな。
 あの有名な「オリハルコン」等も採れるらしい…」



オリハルコン。伝説級の金属。

かつてある勇者がこの金属で拵えられた剣で魔王を倒したという話もある。



「オリハルコンの採れる、鉱山…か。
 そんなのがあるなら、ニュースにでもなると思うが…何かあるんだな?」



「ああ…良くない噂がたっぷりと。
 魔獣が出るとか、有毒ガスだらけとか…」


「有毒ガス!? そんな所俺は絶対行かない!
 それに鉱山ってのも何か色々と…」


オリフィエルが急に拒否反応を示し始めた。



「別に俺達が行くわけじゃないだろう?
 行くとしても全員行く必要性は無いだろうし」


ラファエルはオリフィエルを落ち着かせる。





「でも、鉱山って綺麗そうだよね!」

鉱山が綺麗、とか言い出すアナエル。

宝石がそこら中に埋まっているとでも思っているのだろうか。それとも素か。



「有毒ガスが出る所が綺麗な訳ないと思うんだけど…私はそう思う」

ガブリエルは対照的である。






そうこう話しているうちに、センクレイス城に到達した。



彼等は城内に入る…


「ボルト。」


「スライサー…?
 天使を全員連れてきて…ん?
 一人足りないような気が…六人だっけ?」


「何…!?
 そう言えば…もう一人が…」




「…気のせいか。」


「…いや、気のせいじゃ…」


「スライサー。気のせいだ。」



ミカエルがさらりと酷い事を言った。








「…で、ミカエルの話によると、様々な鉱石が採れる鉱山が何所かにあるようだ…
 そこに向かった方がいいか?」


「そんなのがあるのか…じゃあそこに決まりだな。
 頼めるか?」


「ああ。」





「ええ!? 行くのかよ!
 有毒ガスが出る鉱山なんかに行ってられるかよ!!」


「諦めろ、オリフィエル…天使が有毒ガス程度で死ぬのか?
 そんなに嫌ならガスマスクでもつければいいだろう…
 俺のような一般人は尚更だがな。」






再びスライサーの飛空挺は飛び立っていった。


「あいつら…大丈夫なのか?

 …さて、そろそろ来るかな。」




その時、再び飛空挺が降りてきた。



しかし、「レッドオーシャン」では無く…


青い機体が降りてきた。