第73話 契約



「悪魔王は一人じゃない…」

ガブリエルはふと呟く。



それは、かつての記憶。




遥か昔の事だった。数千万年以上前の事…。



天使と悪魔の戦いがあった。




その頃はまだかのサタンもそこまでずば抜けた力を持っている訳でもなかった…が、

天使達も今ほどの力を持っていなかったため、結局は苦戦する事になったのである。



その時代に、ミカエルとラファエルがある会話をしていた。

「…あんなのが他にもいるのか?」

「…あいつらの下っ端に吐かせたんだが、あのレベルの奴が6人いるらしい。
 悪魔王、って連中がな…」


そんな話をガブリエルは聞いていた。



それを今思い出した。

この時代ではサタン以外を全く気にしていなかったが…


そう考えると、新たに驚異が現れるとしたら…

「他の悪魔王…

 …まさか、オリフィエル…悪魔王と契約を…」



そうでなければ…



「…人を剣に変えるなんて芸当、出来ないって?
 まあ、そりゃあそうだろうな」




「……何故、悪魔となんて…契約を…」






…悪魔との契約。


それは、その名の通りの事象…だが。




その契約により、契約者は強大な力を手に入れる事が出来る。

その力を使用すれば、国一つぐらいなら簡単に手に入る。



しかし…使いすぎれば、当然代償が必要になる。



それは…存在。

その力を行使しすぎれば、契約者は悪魔にその身を乗っ取られてしまう…




そしてもう一つ。


悪魔は死ぬ事が無いと言われる。


悪魔は、肉体が滅びようと、魂が残る。


そして、魂だけの状態で、愚かな契約者を待ち、新たな肉体を手に入れ、再び世に現れるという。


…そうすると、サタンが再び現れる可能性もあるのだが…その事実は誰も知らない。

…まあ、悪魔達は知っているのだろうが。








「…その力を捨てた方がいい、オリフィエル。
 悪魔王との契約…もしかしたらまたサタンの時のような悲劇が起きるかもしれない」


「…いや、それは出来ない」



「…だけど。
 復讐のための力…確かにそう聞いた。
 その相手は今も生きている…?」


「いや、そいつは死んだ…


 かつて、俺と十三の神剣…そして、もう一人。十五人で…この国の王女、クリアハートの護衛をしていたんだが…」


「…王女の護衛?」


「…その時、当時の女王…ブラックハートに、仲間を殺されて、な。
 禁忌だろうと何だろうと、自分達が消えようと奴だけは許さない…そう思った。」


「そして、悪魔と契約した…」



「…悪魔と契約をすれば絶大な力を得る事が出来る。かつて聞いた話…
 それを頼りに、悪魔の魂の眠る地を探し求めた。
 例え、自らを滅ぼそうとも、奴を殺す…そのためなら悪魔とでも契約する…」



「……でも!
 もう、その相手がいないなら、そんな力は必要無いはず…!」


「…まあ、聞いてほしい。
 そして俺は探し当てた。悪魔の…
 それも、「悪魔王」の魂の眠る地を。」




しかし、そこまで言ってここでオリフィエルは不意に俯いた。


「…驚いたよ」


「…その禍々しさに?」



…ガブリエルの問いかけに対し彼は、ラファエルにあのまま持って行かれてしまった「ブレイド・コア」の事を思いつつ言った。


「…いや、俺は同時に思った…
 あいつなら大丈夫だ、ってな…」



「…どういう意味?」


ガブリエルは、その意図が全く分からなかった。


それに対し、彼は言う…





「俺には、この国で起きた事より前にある…
 もう一つ、話さなきゃいけない事がある。
 …そうしないと意味が分からないだろうから」






そして、彼は短い話を語り始めた…





彼は、都会でも田舎でも無いような、そんな町に住んでいた。



「……そろそろ来る頃か?」


すると、彼の後ろに三人の少女が立っていた。


「…って、いきなり後ろに立ってるのはどういう事だよ!」









一体どういう話なのか、ガブリエルにはやはり見当がつかなかった。


ただの昔話だろうか?

「…えっと…何でそんな話に?
 …それ以前に、その三人の少女は一体何?」


「…ああ、その三人は姉妹で、その長女は…」




「わたし」


「…?」


いきなりティルヴィングが口を開いた。


つまり、その三人の一番上がティルヴィングと言う事か。



「…昔からの知り合いだった?」

「そう言う事。
 ミカエルが、「何であいつは神剣なんて大層な物持ってるんだ」って言ってたけど、
 「大層な物」になる前から知り合いだった訳だ。うん。」





「ところで、何で知り合いに?」


「「…さあ?」」


二人揃って覚えてないらしい。







…その三人は彼の親友であり、仲間だった。


時には町の付近の森にでも探検に行ったりもした。



そんなある日…唐突に事件は起こる。


三人の姉妹の次女は、風と闇の力を操る事が出来た。


そして、凄まじい程の魔力を持っていた…




…その日。長女…ティルヴィングと三女は出かけていて、二人で話をしていた。


「…こういうのって、才能って言うんだろ?
 お前の才能は…」


「…さあ。
 私には別に必要のない力だけど、…別にあっても困らない。
 でも無くても困らない。」

「まあ、ラッキー程度に考えれば…」





しかしその時、町民が彼等の居た所に駆けつけてきた。



「おい!」


「…何?」

「何でそんなに慌ててるんだ?
 魔物にでも襲われたって?」



「…ち、違う!
 何か背中に黒い翼を生やした連中が来て…!」


「黒い翼? 何だそ…」

刹那、その町民は真っ二つになった。


「れ…?」



そして、彼等の目の前に、黒い翼を持った者達…そう、悪魔が現れた。




「…いきなり人殺しとは、すっげぇな」


「…危険」

「え?」


「この連中…強い闇を持ってる…危険。
 早く逃げないと…」


唐突に人殺しを行った連中が危険じゃないわけが無い。


二人は一気に逃げだした。しかし…


「待ちな! そこの餓鬼ィ!」



素早く悪魔は動き、二人の行く手を塞いだ。



「何だよ! もう!
 俺はまだ死ぬ気は無い!」


「貴様に用は無い…用があるのは…
 そっちの女ァ! 貴様の方だ!」



「…私?」



「…どういう事か知らないけど、こいつを殺させる訳にも…」





「殺す訳じゃねぇさ…!」



そう言うと、後ろからまた別の悪魔が、その少女の腕を掴んだ!



「……!」


「お、おい!
 な、何を…!」


「こいつの闇の力は相当な物のようだな…
 中々の力を発揮してくれそうだ…連れて行け!」



「…って、連れて行かせる訳無いだろ!」


彼は、近くに落ちていた棒を拾い、投げつける…が、当然…




「…死にてぇのか、この餓鬼…」


「!」



そんな物はあっさり弾き飛ばされ、その悪魔に、重い一撃を浴びせられてしまった。




そして彼は倒れる…



「……!
 …っ…」


「さあ、早く連れて行け!」





当然…目が覚めた頃にはもう誰もいなかった。


それだけでなく、その町は廃墟と化していた。



人は死ぬか、逃げるかしたのだろうか。





「…これだけ語ればいいか。
 ま、知り合いの姉妹がいて…その次女が悪魔に連れ去られた、と言う訳だ」


「…そんな事が?
 悪魔に連れ去られた、って…」



「あの後、他の二人が戻ってきて、しばらくは…
 まあ、気力も何も、無い。夢も希望も無い。そんな状況に打ちひしがれていた。そんな感じ…だが。

 …次にまた別の話だが…以前、サタンを倒しに地獄まで行っただろう?」


「…?
 うん…」


「その時、反乱軍の天使…カルテットが悪魔になっていたわけだが…」


「…今は戻ったらしいけれど。
 「グランド・フォース」…で。」




「…悪魔は、天使及び人を悪魔へと変えられる。」




オリフィエルは、静かに言った。

「そう、俺はその後あいつと再会した…
 そうしたら、どうだ…あいつは悪魔になっていたんだ…」



「!?」


ガブリエルは、それに驚く。


まさか…




「…契約した悪魔って…」