第76話 未知の襲撃 「…どうすれば」 ソルが唐突に呼ばれて言われた言葉に絶望を感じていた。 「信じん! 俺は信じんぞ!」 一方頑なに拒むエストレア。 「それはともかく。 悠長にしなけりゃ勝てるんじゃないか?」 今度はブルームーン。 彼にしてはまともな発言か。 ただ、何をすればいいのか分からない。 「……」 一同は黙り込んでいた。 一方、ガブリエルとオリフィエルはまだ話しこんでいた。 「具体的な解決法ってあげられないのか?」 「…多分、完全に私達に投げられてる。 つまり、もしかしたら「押しつけられた」とか…」 そんな方向に行ってしまった。 ただ、その二人はかなり深刻な顔で話していた。 当然、それに気付いた人物もいた。 それは… 「えっと…おい、「ィ」?」 フォルス。ライトの親友であり、少し前に壊れていたが今では元通り。 「誰が「ィ」だよ、誰が…」 「何か知っているのか?」 フォルスは自分から呼んでおきながらオリフィエルをスルーした。 「えっと…」 ガブリエルは事の全体をこっそりフォルスに話した。 オリフィエルの過去話はざっくり八割近く削られたが。 いかにもフォルスがその部分に興味無さそうだった。 その間ずっとライトの近くにいた、不安そうなアナエルを眺めていた。 同じくその間オリフィエルはほんの少しの怒りと哀れみを堪えていたのだった… なお、ライトはじっとアナエルを見つめるフォルスに気づいていたが、段々どうでもよくなって目をそらした。 アナエル自身は俯いていて気付いていなかった。 「とにかく…謎の声って事なのか?」 「そう、私達にも全く分からない、謎の声」 ガブリエルはそう言い首を横に振った。 ため息が漏れる。 その時になってようやく、オリフィエルはある事に気づいた。 「あれ、ミカエルがどっか行ってる」 「…え」 街の喫茶店 「でさ、もう俺疲れたぜ…休みたい…サタン以上の敵が出てくるなら俺はもう駄目だ」 「お、おい…ちょ、ちょっと…」 ミカエルが荒れていた。 「スピード、俺とお前でどっか逃避行しないか」 「何で巻き込む!? … (でも、これはもしかして… 今だったら…)」 スピードはいつから恋に目覚めたか。 しかし恋を始めてもなお女らしさがほとんどないように見える。だが今後に期待。 「(何に期待する気だ)」 聞こえていたというのか…!? 「……ナレーション交代させろよ、このナレーションは変態だ」 「…ナレーション?」 と、その時 「お、声が変わったぞ」 「…これ小説だから見ている人には全く分からないと思うんだけど」 …改めて、その時 ガラスが割れるような音と、多くの悲鳴が二人の耳に届いた。 「って、な、何だ!?」 「見えない物と話している隙に何か起きた!」 「うわー!」 「キャー!」 「ぐぎゃあああああああああああ!」 様々な悲鳴が飛び交う。 「一体何が起きているんだ!?」 「何だこいつは!?」 「誰か助けてえ!」 「お、俺のお茶漬けがあああああ!」 ミカエルは騒ぎの方向へ走った。 「くそっ、一体何が…!」 「お茶漬けには突っ込まないのか」 「それはただのダークネスだろう!?」 「そいつがいる事に突っ込め!」 現場では、黒い、形容しがたい何かが暴れまわっていた。 人の形にも見える。だが人とは明らかに違う。 全身真っ黒で、顔も無い。 しかも、手足の部分が伸縮したり尖ったりする。明らかに別の生命体。 その状況は、まさに惨事。 先程のお茶漬けなんて吹き飛ぶほど、そこに血が溢れていた。 そこで、まだ犠牲になっていない人々を守るように、一人の男が巨大な斧を振るっていた。 全身黒ずくめの服に、それと不釣り合いな白い翼を持った男。 その男はフードを被っている。 「くそっ…さすがにお茶漬けはもうどうでもいい… とにかくこいつを何とかしないと…」 「ダークネス!」 「って、その声は!?」 ミカエルとスピードは咄嗟に黒い男と黒い何かの間に入った。 「スピ…−ドと、ミカエル!」 多分最初にスピアって言おうとしたのだろう。 「いや…人前でやたらめったら空間の力は使えないな」 そう言うと、彼は久しぶりに天使の力を消し、人間の姿をとった。 だがお前は喫茶店で出していなかったか? ミカエル…むしろ人間の姿だからスピア…は黒い何かに、地面から拾ったガラスの欠片を突き付けた。 「さて、じっとしろよ、謎の生命体…」 「おい、危険だぞ!」 ダークネスは慌てて叫ぶが、時すでに遅し。 ミカエル…ではなくスピアは黒い何かに殴りつけられて喫茶店の向かいにあった建物の壁に叩きつけられた! 「ぐっ!?」 「くっ…こいつ滅茶苦茶強いんだよ! おまけに何回斬りつけても、真っ二つになったかと思えば引き合ってまたくっ付いて元に戻ったりしやがる!」 「はあ!?」 つまり自己再生能力を持っているという事か。 そうなると話が別になってくる。 「前言撤回! 空間の力使う!!」 そう言って再び天使の姿に戻ろうとする…が。 「…あれ?」 「…?」 ダークネスとスピード、それにその後ろの人々はスピアを見る。 「…あれ…おかしいぞ… 力が入らない…空間の力が使えない…」 「は!?」 焦りの声を上げるスピード。 彼が一撃で力が入らなくなるような致命的なダメージを受けるとは思えない。 「やべぇ…本気でやべぇぞこれは」 その危機は、すぐに伝わった。 センクレイス城内で話をしていたガブリエルとオリフィエル…だが。 オリフィエルに、あの謎の声とは別のもう一つの声が呼び掛けた。 「さて、どうやって伝え…」 『街に異変が起きている』 「は!? どういう事だ!?」 突如大声を上げたオリフィエルに、周囲の視線は釘づけになった。 『仲間が危険に晒されている…』 「まさかミカエル…」 「オリフィエル…!?」 「……もう何か起こったようだ」 城内がざわめく。 たちまち一同は混乱しかける、が、それを余所に… オリフィエルは外へダッシュした。 すぐにガブリエルが追いかけ、彼に問いかける。 「…何でそんな事が分かったの」 「…悪魔のおかげとでも言うか… 最近は話しかけてくる機会も多いな。力でも戻ったのか…」 それも一つの問題か…そう、彼は思った。 スピア、スピード、ダークネスの三人は、周囲の人々を逃がした後、黒い何かを取り囲んだ。 とにかく、粉微塵にしてしまえば再生しないだろうと考えた。 まずスピアが黒い何かに突進した。 「おらぁっ!」 そして壁に叩きつける。 その後、スピードが何かを放った。 「はあっ!」 それは、光で出来ているような剣だった。 それを手足の部分に突き刺し、見動きをとれなくする。 「とどめだ!!」 そして、ダークネスが斧で黒い何かを何度も切り裂いた。 黒い何かが真っ二つに、更に真っ二つに、更に… そしてスピアとスピードはその破片の部分に雷や光の攻撃を当ててどんどん消滅させていった。 一方で、黒い何かは残った部分だけで再生する。 周囲の黒い物質が音をたてて動き出し、それぞれがくっ付く。 しかし、それは確実に小さくなっていた。 「やっぱりな、これを繰り返せば何とかなりそうだ」 スピアは笑いながら言った。 力が何らかの影響で封じられているようだが、そんなの関係無い。 他の力で叩き潰すだけだ。 「集中しろよ? 油断して失敗、そのまま反撃されて昇天じゃ笑い話にもならない」 スピードは多少落ち着いていた。 その後も彼等はそれを繰り返し続け、数十分たった頃、ようやくそれは消滅した。 「はあ…はあ…でもさ、 これ一発で消し飛ばせばよかったんじゃ…」 「そんな事出来たら苦労しないだろ…?」 黒い何かは非常に手ごわい相手だった。 少なくとも、あれを一発で倒せるほどの攻撃をする時間なんて与えてはくれなかっただろう。 手足は伸縮自在、刃物のような鋭さにする事も出来る。 しかもその体は大きく、それを感じさせないほど素早い動き。 そして強烈なパワー。 どれをとっても、まともに戦って勝てる要素が見当たらないような相手である。 ここまで考えて、スピアは思い当った。 「……もしかして、これが…」 「「?」」 「これが、新たなる驚異の氷山の一角…そう考えると…嫌な予感がしてきた…」 「あ、新たなる驚異って…どういう事だよ。」 スピアは、内心嫌そうな顔で言った。 「サタンとかそんな次元じゃない、更にやばい敵が現れるって事さ… 手に負えないぐらいの、な…」