第77話 高質多量の敵


何が起きたか天使の力が封じられたらしきスピア。

久しぶりに解除したと思ったらこうなってしまった。


「さて、一体全体何を食らったんだ」


彼は状況を冷静に考えようと努力した。

しかし、目の前の大惨事と、封じられた事実のせいで焦りが出ていた。


そこへダークネスが口出しする。

「翼をもがれた空間天使様ってか?
 久しぶりに会ったと思ったら…大変な事になってるな」


「お前は相変わらずお茶漬けなんだな…」

スピードの一言。


「そうさ!
 俺はこれから反乱軍アジトに戻って、ようやく手に入れた
 「プレミアム☆お茶漬け」を食べようとしたのに!」

ダークネスは懐から輝く袋のいかにも豪華そうなお茶漬けの素を取り出した。



『全国のお茶漬けファン必見! これぞ歴史に残る究極のお茶漬け
                        サイバーお茶漬けキングダム株式会社』




「サイバーお茶漬けキングダム株式会社!? 何だそれは!?」


「この世界のお茶漬けの98%シェアを誇る、数十万年の実績のある由緒正しき偉大な会社だ!」


ダークネスは熱弁していた。

その熱さ、暑苦しさたるや何処かの馬鹿を思い出させる。

スピアとスピードはそこから離れたくなった。


二重の意味で。


ある意味、二人はダークネスに感謝もした。

先程まではかなり暗い雰囲気だった。


でも、少しだけ笑えた。



それだけでもありがたかった。



もしかしたら、この先は闇かもしれないから。


ダークネスはそのまんま闇だが。




「大丈夫!?」

その時、上から声が聞こえてきた。



「っと…ガブリエル…オリフィエル…」


二人の天使が空から降りてきた。



「うお!? お、おい!
 お前ウィンドじゃないのか!?」


「ダ、ダークネス…何でこんな所に?」


オリフィエルは面倒臭そうに答えた。


「そりゃあお茶漬けを買いに…」

「もうやっぱり予想通りだった」



「じゃなくって!
 お前、以前力は捨てたって」


「それは一回目の時。
 今は二回目なんだぜ?」


「…二回目って。」

「ライトの妹のさりげない挑発を食らったのさ、こいつ。ラッキーだったぜ!」

スピアはとびっきりの笑顔だった。


「彼女、純粋…」

ガブリエルは、ライトの妹であり大天使の一人であるアナエルの事を考えた。

暗い過去がありながらも、明るく生きていた。

まあ、今は全体的に暗い雰囲気だが…彼女以外も。



「そういえば一回目の時、無理矢理解除したんだっけな。
 どうやったんだ? そんな事…」


「さあ、どうやったんだろうな。さて、と…」


自然に話題を逸らすオリフィエル。



「それにしても久しぶりに普通の人間に見えるな、ミカエル…スピア。」


「その話だが…何か、力を封印されたっぽいんだ」


スピアは頭を掻きながらそう言った。



沈黙。

「…頭を掻きながら言う事だとは思えない…」

ガブリエルはため息を吐いた。



「ふ、封印?
 誰と交戦したんだ?」


「多分、雑魚。」

「雑魚に封印されたのか…」


「ああ…雑魚って言ってもこれまでの比じゃない。
 凄まじい再生能力持ちで、パワーは規格外。
 その上体が伸縮自在な上に腕を刃物のようにも出来て、
 おまけに素早い、とんでもない相手だ」


「…雑魚?」



それが雑魚なら世界滅亡ぐらい余裕である。






「とにかく、本当に対策を立てないといけなくなったと思う。
 一旦城まで戻るか…」


「ああ…っていうか、
 スピードが何故ここに?」


今更。

「ま、まあそんな事はどうでもいいよな?
 城行こう城!」


誤魔化したスピード。


「…ま、ああ見えて過去の償いはし続けているらしいからいいんじゃないか?」

スピアはさらっとそんな事を言った。

「そう、だな。」

ただ、本当の事だった。




そして、再び城…に着く直前。

オリフィエルが「先に行っててくれ」と言いだした。


スピアは特に何も訝しく思わず、「失踪するなよ」とだけ言ったのだった。


しかし、何故かガブリエルも一緒に行ってしまったのだった。


「まあ、よく分からないけど失踪はしないだろ」


「あいつ一回失踪したのか…」






先程騒ぎがあった所とは逆の方向、オリフィエルは人気のない所まで来た。

ガブリエルは何かを感じ取ったらしくついてきた。

「って、何でついてきたんだ?」

「…悪魔」


「…悪魔がどうしたんだ?」

「もしこの世界そのものに危機が迫ると言うのなら、天使と悪魔とか、敵と味方とか…
 そんな事を気にしていたら…」


「そう言う事か。」


オリフィエルは全く顔色を変えない。


「あいつの力がそろそろ戻ってきてるな…」

「え?」


ふと、ガブリエルはオリフィエルの右目辺りに違和感を感じた。


別人の目のような、そんな気が。



「…悪魔と契約した者はいずれその悪魔に魂を封印され、肉体を奪われる。
 そうしてかつて死んだ悪魔が復活する…」




それが、悪魔。


誰かを消し去る事で、自らを復活させる。



「…俺が消えたら、どうなるのか」


「オリフィエルが、消えたら…?」

「悲しんでくれる人は、いるのか…
 俺のために泣いてくれる人は、いるのか…
 それだけ気がかりだ」


「…誰も悲しまない事は、無いと思うけれど?
 少なくとも、誰か仲間が消えたら普通は悲しむはず…」


「…そうか。
 そうだといいな。
 まあ、あいつはまた、生き返れるんだけどな…
 出来れば消えたくないけど…それは無理だし」


「……」



と、その時。


二人の目の前に、何か黒いもやのような物が集まりだした。


「…って、何だ!?」


「邪悪な気配が…」

「邪悪って…敵か!?」




そしてそれは、黒い人型の何かを形作った。


「これは一体!?」

「この感じ…さっきスピア達が戦った奴と同じような物なのか?
 さっき感じた何かと似てる…」



「敵なら…消し去るだけ!」


咄嗟にガブリエルの周りに魔法陣のような物が現れた。


そしてその陣から強烈な光が溢れ出し、黒い何かを飲み込んだ!



「おお…」


その後には、何も残っていなかった。

「再生すらさせないって事か…」



ガブリエルのそれは、ミカエルの力をも超えているかのようだった。


だが、その直後にガブリエルは更なる何かに気づいた。



「待って…まだいるかもしれない…」


「…え?」

オリフィエルは、それに対して明らかに焦っていた。



よく見たら、後ろにも黒い何かがいた。



「…何でだよ…もしかしてこれって量産型?」

「…この街が危険に晒されている可能性が高い…私達で何とか少しでも多く倒さないと。」



周囲に立ち込める…邪悪な気配…はっきりと分かるぐらいまで。





「さすがに、この数は対処できないかもしれない」


「嘘だろ…じゃあどうすればいいって言うんだ?」


にじりよって来る黒い何か。

「この黒い何かを早急に片づけないと…私達の命の保証は…無い…
 だけど、片付ける方法は…思い浮かばない」

「…詰み、かよ」


二人は半ば諦めかけていた。


「…さっきのは、さすがに連打出来ない…よな?」

ガブリエルはそれに対し溜息を吐く。

「…一体だと思って全力を出したから…」


「ああ…なるほどな」