第79話 闇を照らす 「ガブリエル、大丈夫か…?」 「……。」 センクレイス城で…ラファエルの呼びかけに無言で頷くガブリエル。 彼女は大した怪我をしていなかった。 一方… 「怪我した所って包帯で巻けばいいんだよね?」 「お、おい! きつい! 痛い!」 結構な怪我を負ったオリフィエルに包帯を巻きまくるアナエル。 天然なのか、わざとなのか。 「二人とも、結局大丈夫なのか?」 「…ええ」 「ああ…」 そこで突然、オリフィエルは質問をスピアに投げかける。 「…その場にいた黒い少女って、どんな見た目だった?」 スピアは特徴を思い出しながら語る。 「黒い服で…髪が緑がかってた。変わった色だな。 見た感じ…15、6歳ぐらいか?」 「…おかしいな」 「は?」 オリフィエルは少し考え込んだ。 「もしかして…知り合いか?」 ラファエルは問う。 オリフィエルはそれを否定しなかった。 「ああ。それが本当なら俺はそいつを知っているはず… だけど…有り得ないんだよな…」 「もしかして…死んだはず、とか?」 「…それに近い、かな」 一方… ボルトは考え込んでいた。 「…直に見たわけじゃないけれど… もしかしたら…」 「どうした…?」 スライサーが彼に話しかける。 「スライサー… いや、何ていうか… 本当にその黒いのは強いだけなのか?」 「…俺も見ていないからよく分からないが… どうも、弱点があるような気はする…それさえ分かればいいんだが…」 「…何か黒い服の少女が大量の黒い敵に囲まれていながらどうたら… 誰かは知らないが、いくら強くても、スピアが苦戦する相手を一人でそんな大量に倒せはしない。 それこそ悪魔王か? 力押しで勝てる相手って…」 ただ、それは分からない。 まあ、有り得ない事も無いかも知れないが…さすがにあれを基点として考えるのは間違いだろう。 「あの黒い敵を解析出来ればな… 弱点の一つぐらい見つかると思うんだが…」 「こういう事は、誰に頼めばいいんだ?」 「サイバーキングダム、か?」 突然スピードが話に加わってきた。 「サイバーキングダム… あそこなら解析機器ぐらい揃ってるかもしれない、か…」 「そういう事。」 「…スピード。 そうは言うが…問題は、黒い敵の確保だ。 一体捕獲しないといけない」 「まあ…精密な解析を望むならそれぐらいしないとなあ… 俺はあんなの捕獲できる自信が無い。ましてや複数相手に…」 と、ここでスライサーはスピードに対してある事を伝えようと思った。 「…そうだ、スピード…少し関係無い話だが…」 「…いきなり何だ?」 だが、その問題となる「ある人物」が何所にいるかは分からない。 そう考えると少し…だが、伝えておいた方がいいはずだ。 「お前の姉…俺は見た」 また一方… ソルとブルームーンは隅でしゃがんでぶつぶつ話していた。 「どうすんだ?」 ブルームーンはやる気の無い声でソルに話しかける。 まあやる気は出せないだろう。 しかしここでソルがふと立ち上がった。 「…ブルームーン…このまま行くと何かが起きて俺達が死ぬかもしれないんだよな?」 「…そうだな…あー、このまま終わるとか…」 ソルはブルームーンの言葉を遮り突如叫んだ! 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! グゥゥゥゥゥラァァンドフゥオオオオオオオス!」 「ぶっ!」 ブルームーンは思わず噴き出してしまった。 周囲も全員彼の方を見る。 「ど、どうしたソル!? ついに頭がおかしくなったか!?」 「おかしくなってなんかいない! 俺は本気だ!」 姉が生きていると聞いたがさすがにソルの方に気を取られてしまったスピードは、 彼に近づき、少し怒りを込めて言い放つ。 「…大事な話の時に限ってお前は…!」 「…どう動けばいいかは分からないけれど、このまま何かが起こってしまうのを待つなんて嫌だ! だったら、何か動けばいいんじゃないのか!? 何でも!」 「馬鹿か!」 スピードは一蹴した。 「意味も分からず動いたら黒いのに襲われてすぐ終わりだ! もう少し考えて…」 「考えてるだけじゃ無理だろ!」 「は、はぁ!?」 しかし彼女はソルのよく定まっていない反論に気圧された。 「俺がここまでよく冷静に考えて動いた事があったか!?」 「…いや、俺が言うのも難だがお前って案外勢いで動くよな… 今の叫びも勢いじゃないのか?」 ブルームーンが代わりにそれに答えた。 「それに冷静に考えたらあんな叫びをこんな所で出来ないしな」 現在、センクレイス城内には多くの人々が避難している。 そんな中でこんな事叫んだら変人の域を飛び越える。 「…だけどやっぱり勢いが大事なのか…! よっしゃあ! ソル、行くぜ!」 だが何故かブルームーンがノッた。 「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! グゥゥゥゥゥラァァンドフゥオオオオオオオス!」」 叫びが増えた。 「こいつら…限りなく究極の馬鹿に近い!」 驚きを隠せないスピード。 その前に究極の馬鹿って何? 「…馬鹿二人が叫び出した。 やれやれ、あいつらを宥めないとな」 「あいつらは馬か」 ボルトの変な突っ込み。 スライサーは二人に歩み寄る。 「ソル、ブルームーン。 場所を弁えろ。ここは一応城内… あそこには馴れ馴れしい王もいる」 「おいスライサー…お前…馴れ馴れしいって思ってたのか… そこまで馴れ馴れしくしては無いんだが…」 「王にしては、だ」 「…だけど、こう陰気なままだと駄目だろ!? 折角ここに全員集合してるんだから…!」 「…他に方法は無かったのか…まあいい、確かに気分を盛り上げるのは大事だ。 協力しよう」 「なっ…スライサー…」 スピードは焦る。まさか馬鹿二人に協力するとは。 とはいえ、ソルとブルームーン、それにスライサーは同じ街で一緒にいた仲である。 まあ、それを考えれば不自然でもない。 「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! グゥゥゥゥゥラァァンドフゥオオオオオオオス!」」 「すまん、さすがにそれには乗れない」 まあこれは無理と言うものである。 スライサーにこれをやれと言う方が酷である。 「どうしたんだよ! 調子を上げていくぞ!」 「逆に下がる…! 俺がこれをやったら!」 「…こいつら何?」 スピードの焦りっぷりはどんどん目立ってくる。 「くっ…だがある奴は言った…「恐れを抱くな、心に光を持て」と… こうなれば…やるしか無いのか…!?」 「おい!」 某所 「誰かが俺の言葉を言っている」 「どうしたんだよ…」 何処かで何者かが呟いていたのだった。 「う…うおぉぉぉぉ…」 そしてスライサーは未知への挑戦を始めた。…恥めた、の方がいいだろうか。これは。 「もっとテンションを上げろ、スライサー!」 「くっ…」 「何かあの三人、見ていて悲しくなってくるんだけど」 「こっちもそれは思った」 ボルトとラファエルが感想を抱く。 「だけど… しばらくずっと暗かったから… 個人的には…何だ? 助かる感じだよ。 城でやるのは出来ればやめてほしかったけどな」 「……あいつらは俺達にも出来ない事が出来る。 その…何と言うか。あいつらが羨ましい。 使命なんて物に縛られずとも…あいつらは… まあ見ていて少し可哀想だけどな」 「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! グゥゥゥゥゥラァァンドフゥオオオオオオオス!」」 「…うおぉぉぉぉぉ… グ、グ、グ…」 「誰かあいつら黙らせろよ! 主に二人を!」 スピードのイライラが最高潮に達した…が、 「止めてやるなよ、スピード」 「ス、スピア?」 「あいつらは、俺とかよりよっぽどいい。 最近、俺は暗すぎるしな。あれくらい出来ればな」 「馬鹿じゃないのか!?」 スピアは罵倒されながらも続ける。 「…頭がいいだけじゃ駄目さ。 あいつらは多分馬鹿だが、必要だ。あれくらいの馬鹿さ加減でいいと思うぜ」 「…そういう物なのか…!?」 あの三人を見ていたら、それまでの暗さが嘘のようだった。 こういう事も…たまには必要だろう。 唐突に何かが起きて、落ち込んで… でも、それでもまた立ち上がれるだろう。 未知の恐怖が迫ろうとも、砕けずに。 少しでも、変えられたなら。