第82話 疾き霞(前編)



かつて。


スピードの姉、ミストは盗賊団に襲われ「殺された」。

グランディア…悪魔王サタンがそうなるよう仕向け、スピードをかつて利用した。

まあ、盗賊団と言ってもサタンの部下である悪魔がそう見せかけただけだったが。


「で、お前の姉が死んだのを見た奴って誰だ?」

スライサーは静かにスピードに問いかける。



仮に…

「…薄い希望を語って励まそうとしたって意味は無いだろ…勘弁してよ
 多数の悪魔相手じゃいくら姉さんでも…」

少し弱弱しい口調のスピード。

彼女にとっては、遥か昔のその事件もつい昨日のような。そんな事件。


「おい、スライサー! スピードの心を抉るような事をしたら…」

スピアがいきなり怒る。…?




少しの沈黙の後、スライサーは納得したような顔をし、頷いた。

「仲良き事の美しさ、想像以上か。
 末長くお幸せに」


そして二人は真赤である。

「スライサー! 何言ってくれてるんだ!
 名前の最初の文字が同じだからって容赦しねぇぞ!」


スピアがキレた。

スライサーはもう見るだけで「やれやれ…」と言った声が聞こえてきそうな態度だった。




そのまま乱闘に突入した。


想像を絶する殴り合いを行うスピアとスライサー。



フリーズの氷が溶けて無事解放されたライトはそれを見てさすがに慌てて二人を止めようとした。


「二人とも落ち着け! 仮にもここは城内、そして仮にも王の御前だぞ!?」

「…仮にも仮にもって、酷い」


ライトはなおも言い続ける。


「センクレイス王(仮)の前でそこまで無礼な事をするというのか!」


嫌味っぽさが全くライトの言葉から感じられない。

ライトは本気だった。


だからボルトは泣いた。

あまりに悲しかった。





スピアとスライサーの乱闘が止まったのはそれから数十分ほど経った後だった。


結果、スピアは負けを喫することとなる。仕方ない。



「…これは希望的観測ではない。」

何事も無かったかのように再び喋り始めるスライサー。


「以前お前から名前を聞いて、ようやく本当の事だと分かった…」

スピードは怪訝な顔をする。

「どういう事だ、スライサー…?」


スライサーは、その問いに答えようとした。

「どういう事か? それは」


「こういう事。」